第7章 過去

3/12

353人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
 そんな簡単に隠蔽なんてできるのだろうか。  でも、信之助が五年も野放しだったのは、そうであったからであり、信じ難い事実なのだと、目の前の男を見てるとそう思わせられた。  そうであったら絶対に駄目なのに、だ。 「伊達坂漢助は我武者羅に警察官の本来あるべき通りの道を進んで行った。誰の言葉にも耳を傾け、信念を貫いていた……でもね、そんなの理想に過ぎないんだよー」 「理想……?」 「警察官は組織でできている。それが揺れる事は絶対にしてはいけない。上が隠蔽したのなら、下もそれに従う。だから、上手い具合に成り立ってるんだよ。これ、昔からの親父の口癖」  そう、信之助は十汰に言った。でも、それは間違っている。十汰は信之助にそう言おうとした。でも、それは信之助の言葉により言えずに終わる。 「それを突き付けられたのは五年前の俺が起こした拉致事件。あれを起こす前、俺は監視されてたって言ったよね? それは有志で集めた数人で形成されてたんだよ。その人間が休みの時に交代でしてたんだ。まぁ、ボランティアみたいな物だったけど、金はじゅったんの親にたくさん貰えてたみたいだから割といいバイトだったようだよ。でも、伊達坂漢助だけは違った……」 「え……?」 「監視が取り止めになったのに、伊達坂漢助だけは俺の事を監視し続けた。あと、金も受け取らなかった。……あいつはさ、休みの日や半休の日。まばらだったけど俺の家の外に張り付いてた。あの日もそうだった……撒いたと思っていのに、あいつは俺の事を監視してた」  だから、あんな男に見付かった。そう信之助は憎しみを込めた言い方を言い放った。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加