第8章 嫌悪

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 それが嫌なくらい分かるのだ。  信之助はそんな十汰を見て、もう大丈夫だと確信したのか、笑みが止まらないようだ。  それがムカつく。 「抵抗…しないって……言ったのに……」 「言ったけど、抵抗しなさそうに見えないじゃん」 「ハッ…正解……」  十汰は熱くなる身体をどうにか気持ちだけで落ち着かせようと、息を吸い、吐きを繰り返した。  荒くなる呼吸に呑まれてはいけない。そう、自分に言い聞かせる。 「抱いて欲しいんじゃない? ほら、抱いてって言ってよ」 「言うわけ…ないっ……だろ……。馬鹿じゃ…ないの……?」  こっちからそんな事、絶対に言わない。  俺はそんなに弱くない。そう、十汰は心の中で何度も何度も呟いた。  なのに、その気持ちをだんだんと弱くさせる音が聞こえて来た。---雨が降る音だ。 「そういうの良くないなー。でも、俺知ってるよ、じゅったんの秘密……」 「ひ…みつ……?」 「五年前にされた時と似た状況になると、発作が起きるって……」 「!」 「雨……怖いよね?」 「ハハッ…そんなの怖くない……なっ!」  バシャッ。そう音を立て、水が十汰の身体を濡らした。  信之助はさっき十汰に飲ませたペットボトルの残りの水を一気に全て十汰にかけたのだ。 「ハァ……ハァ……っ」  その瞬間、ザーッと音を立て雨が盛大に降り出した。その音は部屋にいても聞こえるほど激しかった。 「あ…め……っ」  雨。濡れた服。そして、十汰を拉致した男。  それに、煙草の臭いとアルコールの臭い。 「ハァー。この臭い、二つも駄目なんだよね?」  信之助は煙草に火を点け、深く煙草を吸った。その手にはいつの間にか缶ビールがあり、それを信之助は一気に飲み干した。 「じゅったん……」 「よ…るな……ハァ…来るなぁ……っ」  あの時と同じ状況。  降り続ける雨。濡れた身体。煙草の臭い。アルコール。  忘れたいと思い続けていたあの日が蘇る。 「やめっ……やあっ……」  信之助が近付いて来る。覆い被さって来る。なのに、身体が動かない。  怖くて、怖くて怖くて動かない。
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