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まさか、十汰が見たあれが演技だったなんて。それを見てしまった十汰は信じられないと言う顔で漢助を見詰めた。
「お前はまんまと俺と白石の仲を信じた。そして、他織に白石の跡を付けさせ、今日、拉致し監禁した」
「そ、そうだ。でも、白石絢は丸腰だった。警戒心なんて全く無くて簡単だったと長信が……」
「だろうな。白石は俺の仲間にガードされてたから安心しきってたんだろ」
「仲間?」
「フハッ。お前、俺がこっちに来たなら爆弾なんて解体できるわけねーだろ」
「!」
「その仲間の一人が作るのも解体するのも簡単に遣って退ける奴でな。数秒でそれをバラしたらしいぞ」
「そ…な……」
「白石はあいつらに任せ、俺は迷いなく十汰を助けに来たってわけだ。……少し時間が経っちまったけどな」
そう言って、漢助は朦朧とする意識の十汰の身体を強く抱き締め、苦い顔をした。
そんな顔をするほど時間なんて経ってないのに、漢助は申し訳なさそうに十汰の身体を強く、でも優しく抱き締めてくれていた。
「まさかこんな所に十汰を拉致してたなんてな……。ベランダから中が見えて助かった……」
「フッ……ここ、俺がずっと引き篭もってた部屋だから……周りから死角になってて気付かれないと思ったんだけど……無理だったようだ……最悪」
信之助は頭を押さえながらゆっくりと立ち上がり、ハァーッと盛大に息を吐き出した。
「ここから十汰を見てたんだな」
「そう。あんたが割った窓から、じゅったんを見掛けた。それからずっと、じゅったんを愛し続けてた……」
「なら、拉致なんかせずに歩み寄れば良かったじゃねーか……あれが無ければ、こんな事にはならなかった」
漢助が言ったように、もし、その時信之助が十汰に声を掛けていたら何かが変わっていたかもしれない。
こんな事件、起きなかったかもしれない。
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