第8章 嫌悪

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 でも、あの時の十汰は誰にも心を開かず一人になる事を好んでいた。  十汰に興味が無い両親。馬鹿な事ばかりしている兄の行動や言動。それら全てに嫌気が差していた。  そんな時に信之助に声を掛けられていたら、十汰はもしかしたら戸惑ったかもしれない。  でも、友達にはなれたかもしれない。 「いいよな……あんたは。頭も良くて顔も良い……男も女も惚れる完璧な男。それに、警察官のサラブレッド……」 「何が言いたい……」 「俺だって、優秀な警察官の血を引くサラブレッドだ! なのに、顔は不細工、根暗でキモい、頭も悪いただの男……。顔を変えたって、中身までは全て変わるわけがない……」  そう言って、信之助は持っていたナイフを取り出した。 「伊達坂漢助……なんでお前ばかり良い思いをする? 同じサラブレッドなのに……」 「俺はサラブレッドだなんて微塵も思ってない」  漢助は躊躇いもなくそう信之助に言い放った。そう言われる事が我慢できないようだ。 「俺は親父や兄貴のようにはならないってずっと思って来た。警察官なんかにならないってずっと思って来た。でも、誠一が死んで悩んでいた時にジジイ《祖父》が俺に言った。お前が中を変えろって。警察内を変えて、正しい選択を遂行しろってな」  でも……。そう、漢助は小声で言う。 「組織はでかい。五年前、それがよく分かった。お前みたいな馬鹿な息子に弱い親が何人も……何百人もいるって事もな!」 「馬鹿だと……」 「十汰の事、そして、雪音さんの事。全ては、息子のしでかした事を親に助けて貰ってるだけじゃねーか。サラブレッドサラブレッドって言うけどな、本当のサラブレッドはそんな事せずに自分の力で登り上がって行くもんなんだよっ! お前はただ、サラブレッドになりたいだけのただの脚の折れた馬だ!」 「なっ! 俺は……俺はただの馬じゃない! ちゃんと…ちゃんとした……」 「なら、こんな馬鹿な事をせずに親に頼らずに生きりゃー良いだろッ! 周りを巻き込んでまで手にできる物なんて何もない!」  漢助は信之助にそうハッキリと告げた。  その言葉に、涙する信之助。言い返す言葉もないようだ。  
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