第8章 嫌悪

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 信之助はただ漢助が羨ましかった。  才能に恵まれ、十汰にも愛され、自分のやりたい道を一人の力で進んで行くその背中が眩しかった。眩しくて目を瞑りたかった。  その結果、また十汰を拉致し、強引にでも自分の物にしようとしたのだった。  雪音や長信の人生までも巻き込んで……。 「ハハッ……お前のせいで俺もパパもお仕舞いだ」 「だろうな。今頃、お前の親父は監察官に目を付けられ、後でとことん縛られるだろう」 「じゃぁ、じゅったんのパパやお兄さんも捕まるんじゃない? 五年前の事も根掘り葉掘り聞かれるでしょ?」 「さーな。そこは、土竜がなんとか編集してると思うけどな」 「え……?」 「お前の親父にはライブで、監察官のパソコンには編集した物を送ってある。大事な部分だけを抜粋してな」  抜かりはない。そう漢助は最後に言った。  その言葉に信之助は笑い出し、ツーッと左目から涙を流しだす。 「本当、憎いよあんたが……。俺の邪魔ばかりしてさ……」 「だ……だめっ……」  信之助はそう言って、持っていたナイフを自分に目掛けて振り下ろした。  それを見て、十汰は咄嗟に駄目だと言った。  目の前で人が死ぬ所なんて見たくない。それが例え、憎い相手でも、だ。 「馬鹿な事すんなよ……」  頭上でそんな言葉が聞こえた。そして、漢助は持っていた拳銃を強く握り構え、十汰の両耳を塞ぐように自身の胸に強く十汰の頭を押し付けた。  その瞬間、パーンッと銃声が一発放たれた。 「グアッ!」  そして、カーンッと物に当たる音がして、カシャンッと何かが落ちた音が響いた。それが信之助が持っていたナイフだと、十汰は床に落ちたそれを見て分かったのだった。  漢助はナイフを狙い、的確にそこを撃ち抜いたのだ。  銃口からは微量の煙と、火薬の匂いがした。  そして、漢助は自身の胸で押さえていた十汰を解放し、止めていた息をスッと吸うと、次に信之助に向かって銃口を向けた。 「ま、待て打たないでッ!」 「……さぁ、約束できねーなそんな事」 「かん…すけ……」 「十汰に深い傷を負わせ、まだまだ未来ある女性を殺させた……俺はそんなお前を許さない」  漢助はグッと睨みを利かせ、銃口を信之助の頭へと向ける。そして、引き金を引いた。 (だめだ……そんなの……)  怒りで我を忘れている漢助。
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