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---その話しは五年前に遡る。
絢と漢助が付き合っていた時の話しだ。
「水沼、指輪がどうとかって言ってたよね? あれはね、私のじゃないの」
「え……?」
「上司に頼まれてジュエリーショップにあいつが取りに行ったの。嫌々ね」
「で、でも……」
「あと、プロポーズがどうとかってのも間違い。あれは私が勝手に流した話しなんだ」
「え……?」
「あいつ、本当仕事馬鹿でね。デートなんか一回もしてくれなくて、手さえも繋いだ事なんてなかった……」
仕事はパートナーとして共に行動してはいたが、それ以外は二人で会った事すらない。そう、絢は話す。
「だから、少しでも意識して欲しくて、お喋りな上司に結婚間近かもって言ったら署内でそんな噂が出回ったの……」
「そ、そうだったんですか……」
「漢助はね、私の事ちゃんと愛してたわけじゃなかったんだ。ただ、私がしつこくアタックして付き合って貰っただけ」
「そんな……」
「それを五年前、目の前で突き付けられた」
「え……?」
そう言って、絢が十汰を指差す。
「君と出会って、漢助は本当の恋を知っちゃったんだよ。まぁ、最初、君を引き取ったのは同情やほっとけなかったからだと思うけど……でもあいつはそんな簡単に他人と一緒に住む事を許す男じゃないよ。それは私が一番知ってる……君を助けた日から漢助は君に惚れちゃったんだと思う」
「ま、まさか……」
「だって、あいつ警察官辞めた日にアッサリと私を切ったのよ。何も言わず、君を引き取る事にしたってだけ言って。信じられる? そんなアッサリ言うかって感じ」
絢は腕を組み、五年前に感じた憤りを思い出したのか眉根を寄せていた。
「で、でも漢助は白石さんが大切だから……巻き込みたくなかったから身を引いたんだと思いますよ。だって、仕事を大切にしている絢さんを漢助は好きになったと思いますし……」
十汰は漢助が好きでもない人と付き合うなんてしない人間だと思う。
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