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時々、吸いたいと思う時があるようだが、それを常備しているガムで我慢している。
そんな漢助に、十汰はまた好きが募って行くのだった。
「私も煙草ダメなんだけど、あいつ絶対に辞めてはくれなかった。離れてろよって言うだけで、辞めるなんて選択は無かった」
「白石さん……」
そう言って、絢は悔しそうに笑っていた。
その顔を見て、十汰は絢の心にはまだ漢助がいると気付いてしまう。
「ねぇ、事務所で二人で話してたの、十汰君聞いてたでしょ?」
「え……?」
「水沼が盗聴器を仕込んでいるから、勘違いするような演技をしてる時……いたよね?」
「あ……」
「あれね、実は五年前に聞きたかった事だったんだ……まぁ、言いたかった事かな」
絢は下を向き、足元にあった小さな石をコロンッと蹴った。
「あいつ、困ってた。当たり前だよね。演技なのに、私、本音言ってるんだもん……。そんなの漢助にはお見通しなのに……」
誰よりも勘が鋭い漢助。嘘や偽りを見破る力が備わっている。そんな男に、演技は通用しない。
「その時はさ、盗聴器があるから漢助無言だったけど……外に出てちゃんと言われちゃった」
「な…んて……?」
「五年前は悪かったって、あと、今も……」
漢助には乙女心までは見破れなかったようだ。
この演技は、絢にとって残酷な物だったとその時知った。
「私、それ聞いて本当スッキリしちゃった。あー、私も十汰君みたいに可愛い彼氏欲しいって思っちゃった」
「えっ!」
「次は年下狙いで行こうかなって思ってる。こう見えて、私、年下にモテるのよ」
絢はそう言うと、さっきとは違う笑みを向ける。その笑みはもう漢助には未練はない。そう言っているような笑みだった。
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