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第11章 終
夏の暑さが薄れ始めた頃。さきえが顔を出した。
手土産は勿論漢助の大好きなチョコミント味のアイスで、十汰はそれを受け取ると事務所の中へと招いた。
さきえは着くなり依頼料を小切手に書き始め、精求よりも倍の値段を漢助に渡していたのを十汰はチラッと見てしまい、口を押さえる。
そんな十汰に気付かず、二人は話し出した。
「これから先も何かありましたらお手伝いして頂けますか?」
さきえはペンを鞄に仕舞うなり、そう漢助に言った。その言葉に、漢助は首を縦に振る。
「それは勿論。仕事を頂けるならなんなりと」
「ふふっ。なら、早速良いかしら?」
「えぇ、勿論」
さきえは漢助に新たな依頼を頼んでいた。それを聞きたかったが、お茶を入れる為にヤカンに火を付けていた十汰は、キッチンから離れる事ができず、聞く事はできなかった。
「十汰君、またね」
「え! もう行っちゃうんですか!?」
「ごめんね、仕事があって」
「そうですか……」
さきえはこの頃仕事が立て込んでいるらしく、いつも忙しそうだった。
前回会った時も忙しそうに電話で何度も取引先とやり取りをしていて、落ち着くのに時間が掛かった。
ようやく全ての真相が書かれた調査報告書に目を通す事ができたさきえは、真実を知り、悲しい顔をしながらも、雪音が本当に自殺では無かった事を知れて良かったと言ってくれた。
絢を拉致、監禁したとして捕まった長信も、雪音の件が絡み始めて罪が重くなる事もさきえに話すと、ホッとした顔をし、報告書をギュッと強く握って涙を流していた。
主犯である信之助は、父親と共に監察官によって過去の応酬や隠蔽を洗いざらい調べられ、今はこってり警視庁で絞られていると絢が言っていた。
勿論、五年前の事も調べられているようだ。でも、十汰の父親と兄については触れられる事はないようで、それは十汰の父親が信之助の父親よりも立場が上の人間と繋がりができているからだと、漢助がさらっと十汰に話して来たのだった。
「そんな顔してくれるなんて嬉しいわ……」
「葉山さん……」
「私にはもう旦那しかそんな顔してくれる人はいないから……」
一人娘の雪音はもういない。
その悲しみがその言葉から滲み出ていた。
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