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十汰はそんなさきえに言葉が見付からず、心の中で謝るしかできなかった。
五年前に信之助が捕まっていたらこんな事にはならなかった。
そう思うと、十汰はさきえの顔が見れない。
「ねぇ、今度二人でご飯でも行かない?」
「え……?」
「十汰君の笑顔見てると元気が出るのよ。ねっ、いい?」
さきえはそう言うと、十汰の手を握った。その手は温かく、柔らかかった。
「は、はい! こんな俺で良ければ行きたいです!」
「ほんと? 良かった」
さきえは安堵した顔を向け、十汰の頬を優しく触る。その手はまるで母が子に向けるようなそんな優しい手付きで、十汰はその手を自由にした。
「ごめんなさいね、触っちゃって」
「いえ、どんどん触って下さい! こんな俺で良ければ! いつでも貸します!」
「ふふっ、触り過ぎて伊達坂さんに怒られちゃいそう」
そう言って、さきえは笑顔で十汰に手を振り、事務所を出て行った。
その数分後。漢助がキッチンに来て、出かける準備をしろと言い出す。
「う、うん! ちょっと待って!」
十汰はその言葉に慌てて火を消すと、部屋に行き、薄手のジャケットを手に取って漢助の後を追った。
そして、車に乗った漢助を見て、助手席へと乗り込む。
「どこ行くの?」
そう聞くと、漢助は前を向いたまま答える。
「新しい依頼をしにな」
「え……?」
それは、さっきさきえが話していたやつだろうか。十汰は新しい依頼と聞き、少しだけワクワクした。
あんな目にあっても懲りない所を見ると、自分は意外にも探偵向きなのかもしれないと自負してしまう。
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