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さきえも知っていたのだ。二人の関係を。
自分の娘が同性の女性である薫と付き合っていた事に。
「雪音さんはあなたの事も愛してましたよ」
漢助は新にそう言って、あのクシャクシャになっている写真を渡した。
それを新は受け取り、切なく笑う。
「え? あぁ、弟としてですよね……分かってますよそんな事……。ずっと言われ続けていた事ですから……」
「いえ、違います。一人の男としてですよ」
「え……? まさか……」
新は漢助のその言葉に顔を上げ、写真から漢助に視線を向けた。その顔は驚き、信じられないと言っていた。
「調査をしている間に、雪音さんの本当の気持ちまでも知ってしまいましてね……それを調査報告書に書いたら、葉山さんがそれをあなたに話して欲しいと告げて来たんです……。あなたの心を少しでも癒したいと言う言葉も添えて」
さきえは新の気持ちを知っていた。そして、離婚していた事を漢助から聞いた時、この辛さを同じくらい受けている人物がいる事に、少しだけ嬉しいと言っていたそうだ。
「雪音さんの後輩である加納さんに聞きました」
「加納さんに? なにを?」
「手放して初めて気付く事ってあるんだって話してたそうですよ……」
「え……?」
「いつもは酔うほど飲む事なんて無かった雪音さんが、過去に一度だけ泥酔するほど飲んだ事があったそうです……その日はいつだと思いますか?」
「そ…んなの……」
「八月六日です」
「! そ、その日は……」
「あなたと、別れた奥さんの入籍した日ですよね」
「え……? そうなの?」
十汰は漢助のその言葉に驚いた。そして、パッと新の事を見詰める。
「本人は何を口走っているのか分かっていなかったようですよ。でも、ちゃんとそう話していたようです……いつの間にこんなに大きくなっていたのだろうって……」
「っ……」
「加納さんはそれが誰の事なのか分からなかったので、今までそれについて触れる事は無かったと言いました。でも、私にはそれが新さん。あなたの事以外に考えられない……あなたの想いはちゃんと雪音さんに届いていたんです」
「そ…んな……」
「その証拠に、あなたが最後に受け取った花を思い出して下さい」
「え……花?」
そう言われ、新は小さくその花の名前を言った。
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