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そうだ。雪音は最後に新と飲んだ日、別れ際に新に小さな花束を渡していた。それは、雪音と薫が好きだったかすみ草の花束だ。
新はそれを受け取り、姉の仏壇に供えろとでも言っているのだと思っていたらしく、その花に何か意味があるとは思ってもいなかったようだ。
「ピンクのかすみ草なんてあまり見ないですよね。でも、会社の近くの花屋にはその色があった……」
「え、えぇ……。雪音はそれを見付けた日、嬉しそうに話してました。ピンクなんて初めて見たって興奮していたのを覚えてます」
「そうですか。では、青葉さんはそのピンク色のすみ草の花言葉を知っていますか?」
「え……? いえ……雪音は花言葉なんて一度も口にした事も無かったので……そこまでは」
花言葉なんて気にした事も無かった。そう新は言い、でも、それが普通なのだと十汰には思う。
十汰みたいに花言葉まで調べる人間なんていないだろう。
「ですよね。雪音さんにとって、かすみ草は自分の気持ちを素直に表現できる物だったんだと思います。だから、白を薫さんに、そして、ピンクはあなたに渡したんです……」
漢助はそう言うと、スマホを取り出し新に見せた。
「確かに、雪音は姉の月命日の日に必ず白のかすみ草を買ってました。でも、それは姉も雪音も好きだった花で……そこにはそこまでの意味は……」
ない。そう言おうとして新の動きが止まる。
そして、漢助が開いたページを見て、涙を流し始めたのだ。
「白の花言葉は、永遠の愛。そして、ピンクの花言葉は……切なる願い」
「っ……そんな」
「雪音さんは、叶わないと分かっていながら、切なる願いをあなたに教えたくて、それを渡したんだと思います。でも、あなたには妻がいる……その幸せを壊す事は絶対にできない……だから、あなたがいくら愛を囁いても彼女は首を縦には振らなかった……」
「そんな……どうして……」
「気付くのが遅かったんですよ……雪音さんもあなたも……」
「っ……」
「雪音さんはあなたが結婚してから自分の心に気付いた。あなたは離婚した事を雪音さんに伝える事を躊躇い、彼女の事を想うが故に言うのが遅くなった……」
もし、どちらかが素直に自分の気持ちを話していたら、また違った結果になっていた。
そう、漢助は言う。
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