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新はスマホを握り、手に持つ写真を見詰めながらその場で両膝を地面につき、涙する。
「雪音……雪音っ……」
そして、何度も何度も雪音の名を呼んだ。
もう二度と会えないその名前を……。
「あなた達はお互いを深く愛していた。愛していたからこそ言えなかった……でも、それは仕方ない事だと私には思います」
「伊達坂さん……」
「人の心はコロコロと変わる物です。そして、その心を信じる事も、知る事も本人以外には分からない。人の心を読む事は、探偵の私にもすぐには分からない……人はすぐに嘘や誤魔化しを入れますから……」
「漢助……」
漢助の言葉はその場にいた新だけではなく、十汰にも響いた。
確かにそうだと思ったのだ。
だから、人は出会い、別れを繰り返す。
漢助はそれを味わっているからこそ、そんな言葉を言えるのだと十汰には思えたのだった。
「でも、これだけは真実です。雪音さんが最後に愛していたのは薫さんではなく、あなただったと言う事を……」
「伊達坂さん……」
「だから、彼女に怒られないように生きて下さい。雪音さんと薫さんの分まで生き続け、二人が生きていた事をさきえさんとたくさん話して下さい」
「っ……」
「人が死ぬ時は、誰の記憶にも残らなくなった時ですから……」
「……はい」
新は涙を流しながら頷いてくれた。そして、漢助にスマホを返すと袖で涙を拭い、笑みを零した。そして、漢助に感謝の言葉を言い、深く長く頭を下げたのだった。
そんな新を見て、十汰や、日頃顔には出さない漢助もホッとした心で帰る事ができたのだった。
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