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その方が勢いでどうにかなるような気がしたからだ。
ここで静かにしているよりも、怪しい人間じゃない事を前面に押し出した方が良いと思った。
「なので、あっ、怪しい者じゃないです!」
いつもは部屋に戻される為、初コンタクトをどうしたら良いのか分からない十汰は、形振り構わずやって行こうと思い、そんな空回りする発言をしてしまう。
「怪しい人間がここにいたらおかしいだろ……」
「あっ! そ、そうか。そうだね。ハハッ……」
漢助に横からそう言われ、十汰は言葉に悩む。でも、自分は本当に信頼できる人間だとちゃんと伝わって欲しい。
漢助みたいに見ただけで醸し出される迫力や鋭い眼光は持ち合わせていない自分には、やっぱり、依頼人との信頼関係は言葉で表すしかないのだから……。
「えっと……大丈夫ですよ! 俺、口堅いですから! だから……その、心配はいらな……」
「ふふふっ……」
「え……?」
笑われてる? まさかのさきえの反応に、十汰はショックを受ける。
けれど、さきえは笑って直ぐに笑みを浮かべ、十汰に優しい表情を向けてくれた。
「幸村先生の方から、事務所には伊達坂さんの他に頼りになる子もいるからって言われてたので、それが片倉君の事だったんですね」
「せ、先生がそんな事をっ」
なんて良い人なのだろう。ちゃんと、十汰の事も説明してくれていた。
後で夕食で作った物をお裾分けしに行こう。そう、十汰は心の中で決める。
「あの、幸村先生から写真を預かってますか?」
さきえは十汰が誠の言っていた人物だと知ると、依頼内容の話しを始めた。十汰はさきえにそう言われ、手帳に丁寧に綺麗に挟んだ二枚の写真をさきえの前に出す。
「あ、はい。こちらの二枚の写真ですよね?」
十汰がその写真を置くと、さきえはその写真を持ち涙した。
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