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第1章 探偵
雨が降った日。それに加え、一人で寝床についた日は、片倉十汰は夢を見る。
それは、いつだってあの夢だ---。
あの、五年前に起こった恐ろしい時間。それが、鮮明に蘇るのだった。
『そうだよ。ジッとしてて……』
声を出したいのに出せなくて、助けを呼びたいのに呼べない。
朦朧とする意識の中、十汰はトイレの便器に座らされていたのだった。
『やっとこっちを見てくれたね……』
身体は雨に濡れたせいか夏なのに寒く、それが更に十汰を恐怖の渦に誘って行く。
『白い肌だ……スベスベだね……』
般若のお面から向けられる、顔が隠れた男の熱っぽい視線。それが恐ろしくて、十汰は助けを求める言葉が出ず、全てを飲み込むしかなかった。
『い、いいね……素敵だよ……』
黒服に身を包んだ大柄で長身な男。般若のお面で顔を隠し、その奥は見えない。
男は十汰が何もできない事を良い事に、器用に手を動かし、十汰の身体を隅々まで優しく弄って来る。そして、鼻息は段々と荒くなって行き、時々、ゴクッと生唾を飲む音が面の奥から聞こえて来るのだった。
『可愛いね……。スー……ハァ……良い匂いもする……』
面の隙間から臭うアルコール。それに混じり、煙草の臭いもふわっと臭った。
それが一番印象的だった。
『じっとしてれば早く返してあげるからね---』
そう言った男の言葉を信じたのは、早くこの時間が終わる事を強く願っていたからだ。
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