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突然の涙に十汰はあたふたしてしまい、近くにあったティッシュ箱を一度落としそうになりながら、そっとさきえの側に置いた。
「幸村から少しだけお話しは伺ってます。さぞ、その写真を見るのは辛いでしょう……」
「すみません……」
さきえは漢助のその言葉に苦しい表情を浮かべる。その顔はさっきとは別人のように苦渋な顔だった。
十汰は漢助が依頼人の依頼内容を少しだけ知っていた事に驚いた。そして、なんで言ってくれなかったのだろうとも思った。
「辛いでしょうが、最初からお話しを伺っても良いですか? その話しによって、こちらも引き受けるかどうか決めるんで」
「はい……」
待って。今、引き受けるかどうか決めるって言わなかっただろうか。
依頼人がわざわざ来ているのだから、どんな話しでも引き受けるだろ。
それに、仕事を選ぶほどの余裕はここにはない。
十汰はジトっと漢助を見るが、漢助はその視線に気付きながらも無視だった。
「こちらで一人で写る女性が葉山さんの一人娘の雪音さんですよね?」
「はい……。葉山雪音、年齢は二十七歳になったばかりでした……」
(え……? でした?)
何故、過去形なのだろうか。
「仕事は……受付嬢をしていました」
「それは、貴女の経営する葉山建設株式会社でですか?」
「はい……」
〝葉山建設会社〟
そう聞いて、さっきテレビで流れたCMがふと浮かんだ。
「葉山建設会社ってCM流してるほど大っきな会社ですよね?」
「えぇ。自分で言うのも変なんですけど、日本では一、二を争うほどの大きな会社です」
「あっ、やっぱり! すごいですね!」
「ふふっ。ありがとう。でも……先代の私の父がやり手だったってだけで、私はそれを引き継いだだけなんで何もすごい事はしてませんけどね……」
そう言って、少しだけ切なそうに笑うさきえ。偉大な父親を持ち、コンプレックスがあるようだ。
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