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確かに、父親が偉大過ぎると子供は謙遜してしまう。それは、十汰も同じ様な立場なので、さきえの気持ちが痛いほど分かった。
十汰の父親は、東北に何ヶ所か支店を置くくらいの中小企業の社長をしていた。
先代の祖父が創設者で、十汰の父、剛が二代目社長。そして、今は十汰の兄、十郎が仙台の本社に勤めていたのだった。
けれど、次期社長は勿論、十郎となるはずなのだが、十郎は女遊びが酷く、その尻拭いを剛がしている事を十汰は知っている。
だから、祖父はそんな十郎よりも十汰が会社を継いでくれないかと思っているらしいが、十汰には継ぐ気は全くない。
継ぐわけがない。
「私、一人っ子なので嫌でも継がなきゃいけなかったんです……。旦那は個人で飲食店を経営してるので継ぐ事はできなくて、嫌々重荷を背負わされてるんです」
「そうなんですか……」
その言葉に、十汰は他人事に聞こえなかった。
十郎が何かしでかしたら、自分も、もしかしたらそうなるかもしれない。そう思ったからだ。
そんな十汰を、漢助はさり気無く気にしてくれた様で、十汰の思考を戻すかの様にゴホンッとわざと咳を出し、話し出す。
その咳に、十汰はハッとなり思考を戻した。
「なら、娘さんも継ぐ予定だったんですか?」
「まぁ、そうですね……。でも、あの子には私みたいになって欲しくなかったから……好きな事をして欲しいとは思ってました。でも、娘は私の会社に就職してくれて、受付嬢から始めたいと言ってくれたんです……」
その話しに、十汰がさきえに聞く。
「あの……なんで受付嬢からなんですか?」
継ぐ気なら、会社の内部で働いた方が良いのでは? そう思った。
その質問に、さきえは優しい笑みで答えてくれる。
「ほら、受付嬢って会社の入り口の顔でしょ? だから、社員一人一人の顔を覚えたいって。あと、朝と夕の会社員の顔を見て、ここの会社がどれだけ会社員にとって充実している会社なのかを知りたいって」
「へー! すごい!」
十汰は雪音のその気持ちに関心を持った。
そこから考えるなんてすごいなっと心から思ったのだ。
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