第2章 依頼

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 雪音のその言葉は、ちゃんと自分の立場を理解し、将来は会社を継ぐ意思があるとさきえに伝えているのだと十汰は思った。  なんてしっかりした女性なのだろうか。  十汰は写真に写る雪音を見て、尊敬の眼差しを向けた。 「事故は二ヶ月前と聞きました……」 (え? 事故?)  そう漢助の口から出たのを聞き、十汰は漢助を不安そうな目で見詰める。  もしかして……。そう思った。 「はい……。丁度二ヶ月前の今日の事です。深夜遅く、雪音が運転した車が電柱にぶつかり……そのまま雪音は死にました……」 「え……? 嘘……」  十汰は泣き出すさきえを見て、それが嘘でも冗談でもない事を突き付けられる。  さっき、本当に今さっき、尊敬の眼差しを向けたばかりなのに、写真に写る雪音はもうこの世にはいないと知った十汰は喉が熱くなった。 「貴女がここに来たと言う事は、貴女はそれが事故ではないと言いたいんですか?」 「……はい。警察の方からは、司法解剖の結果、大量のアルコールが検出されたと言われ……自ら命を立った事による自殺だと言われました……」 「なら、自殺なのでは? 娘さんがアルコールを飲み、自ら命を立った。そう、警察が言うのならそうなのでは?」 「ちょっと、漢助! なんだよその言い……」  十汰は漢助のその態度と言葉に腹が立ち、バンッと音を立てテーブルを叩いた。  でも、そんな十汰の言葉を遮る様にさきえが漢助に雪音がそんな事をする人間ではないとすごい熱量で話し出した。 「娘は、雪音はそんな子じゃありません! あの子は、ちゃんとしっかりした子で……アルコールを飲んだ後に運転する子じゃ絶対にないんです!」 「では、警察の方が嘘を?」  そう漢助が言うと、さきえは苦しそうに静かに話しを続けた。 「確かに……雪音は事故が起きる直前にアルコールを飲んでいました。それは一緒に飲んでいた人の証言があり、認めます。でも、おかしいんです……」 「おかしい? なにがですか?」 「警察は、娘が不倫関係の縺れで自暴自棄になり、自ら命を立ったと言いました。でも、そんな事実ありません。だって、その不倫していたと言う相手の男性は、雪音の幼馴染の子ですから……」 「もしかして、この写真に写る男の子ですか?」  そう漢助がさきえに聞くと、さきえはコクッと頷いた。  
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