第2章 依頼

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「はい。その子は、雪音の隣に写る(かおる)ちゃんの弟で、(あたる)君と言って、私の会社の営業部で働いている子です」  そう言って、さきえは写真に写る新を指差し、そう言う。 「娘と薫ちゃんは保育園が一緒で、常に一緒にいるほど仲が良い関係でした。その後をいつも追っていたのが新君で、この三人はとても仲が良かったんです……」  そして、さきえは三人が仲睦まじく写るあのクシャクシャの写真を手に取り、そう切なそうに言うのだった。 「なら、不倫話しも嘘ではないのでは? 新さんや雪音さんは昔から仲が良いのなら、勤める会社が同じになり、より一層親密になった事でそうなってしまう可能性は高いと思いますが」  漢助はさきえの話しを聞き鋭い言葉を投げた。十汰もさきえの話しを聞いていて、もしかしたらさきえが知らないだけで、そこに男女の関係が生まれていたのではと思ってしまい、言葉が出ない。  そんな十汰と漢助に、さきえが言う。 「でも……雪音は新君を弟にしか見えないってずっと言ってましたし……事故が起きる前にも同じ事を尋ねたら、同じ返答が来ました。それに、新君が結婚すると聞いた時は心から喜んでいましたし、結婚した後も、奥さんと二人で出掛けたり、姉になったつもりで仲良くしてたんです。だから、なんでそんな噂が流れたのか分からないんです……」  さきえの表情を見ると、その話しは本当のようだった。  確かに娘は自分にそう言った。その言葉には嘘偽りは絶対にない。そう、十汰と漢助に信じて貰うような力強さだった。 「その噂は娘さんが生きている時から流れていたんですか?」 「いえ、事故に遭った後にそんな噂が急に流れたんです。その日、最後に飲んでいたのが新君だったから……尚更その噂が本当の事のようになっていて……警察の方もそれを信じ、自殺だって判断したようです……」 「そうですか……後からですか……」 「漢助?」  突然、漢助の眉間に皺が寄った。何処か引っかかる所があるようだ。
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