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漢助は腕を組み、何か考え込む姿を見せた。
漢助はさきえのその〝噂が後から流れた〟に引っかかっているようだった。
「新君にもちゃんと証言して貰ったんです。雪音がその日、アルコールをグラスニ杯程度しか飲んでいなかったと……」
「でも、雪音さんがアルコールに弱い体質なら、ニ杯飲んだだけで酔う事はありますよね?」
確かに。漢助が言うようにアルコールが弱い人間もいる。
十汰もその一人だ。
グラス一杯の酎ハイを飲んだだけでヘロヘロになってしまう。
「それはないですね」
けれど、さきえはそれを否定した。
「あの子、私に似てアルコールが強いんです。体育大に通っていたのもあってか、お酒は水なんて言い出す子で、ニ杯飲んだだけで酔うなんてありえません……」
「そうですか……」
「それに、新君も雪音は全く酔ってはいなかったと言っていました。次の日は仕事があるから、そこまで飲まないようにしよう。そう決めて、早々と解散したようです」
「なら、その後に飲んだって事は……」
「それもありえません。あの子は一人で飲む事が嫌いな子なんです。新君と別れて何処か一人でなんて想像もできないです」
さきえはそう言うと、信じて下さい、そう付け加えて漢助の目を縋るように見詰めた。
「あの子は確かに車を運転しました。でも、自ら進んで車に乗るなんてありえない。飲酒運転なんて絶対にしない子なんです。お願いしますっ、あの子に何があったのか、真実を知る為に力を貸して下さいっ」
「葉山さん……」
子を想う母の今時珍しい姿に、十汰は一人、胸が切なくなった。
もし、自分が雪音のようになったら、十汰の両親はこんなにも必死になって誰かに頭を下げるだろうか。
いや、それはありえない。
金で解決するような連中だ。こんな風に懇願する事はしないだろう。
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