第3章 開始

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 十汰はそんなさきえの肩を優しく撫で、「大丈夫ですか?」と聞く。その言葉に、さきえは切なそうに大丈夫だと答えた。 「ブレーキ痕は無いんですね」  漢助は一通り周りを見終わったのか、こっちに来てそう言った。  その言葉に、さきえは頷く。 「はい。事故があったその日の朝方、私もここに来たのですが……ブレーキ痕は全く見当たらなくて……。警察の方にもそこを指摘されて、それは、雪音が自ら電信柱に向かった証拠だと言われました」 「そうですか……」 「漢助?」  漢助がふと、いつもとは違う表情を見せた。少しだけ怖い顔だ。 「事故当時、雪音さんの止めていた場所って分かりますか?」 「はい。決められている場所はここです」  さきえは電信柱から斜め横の三台止められるスペースで足を止める。その向かって一番左が雪音の止めるスペースだったようで、そこだけ車が止まっていなかった。 「ここって、真っ直ぐ進んだらそのまま電信柱にぶつかってしまう所ですよね?」 「はい。でも、一回少しだけ前に出して、こっちの空いてる右のスペースにバックで下がり、ハンドルを切ればスムーズに出る事ができるので、ぶつかる事は無いって……雪音…得意そうに話してました」 「そうですか……」  その言葉に、漢助はまた眉根を寄せた。 「あの子、運転には自信があるんですよ。ドライブとかが趣味なので、狭い道でもスムーズに進んで行くんです。だから……前方不注意とかもないし……」 「葉山さん?」 「事故も……一度もした事がなくて……」 「だからこそ、警察は娘さんの自殺って事で処理したんですね」 「はい……」  さきえはコクッと小さく頷くと、持っていたハンドバッグからハンカチを取り出し涙を拭う。
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