353人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
漢助も絢に対し、自身が探偵になった事を言いたくはなかったようで、面倒臭いと顔が言っていた。
「なんで探偵なんか……」
「なんでって、それはお前が一番知ってるだろ……」
「それは……」
「俺は、組織の中でやって行くのは無理だ。上に従うなんて事はもうできない……でも、人を助ける仕事はしたい……ただ、それだけだ」
漢助はそう言うと、雪音のマンションへと歩み始めた。その後を十汰は直ぐに追いたかったけれど、漢助と絢との関係が深いと知り、何故か追う事に躊躇いが出た。
「待って、漢助……」
「!」
絢が突然走り出し、漢助の袖を掴んだ。
その顔は赤く染まり、さっきまでのクールな物ではなくなっていて、女の顔になっていた。
「これ、私の今の連絡先……。あと、住所……。前のマンション引っ越して、今は県警から近い所に住んでるの……。また、一緒に飲もう」
絢は慌てて一枚の紙にサラサラっと連絡先を書き始めた。そして、それを漢助の手に仕舞う。
「白石……」
その誘いに、漢助は見るからに戸惑っていた。
受け取るか受け取らないかを悩んでいるようだった。
そんな漢助を見て、十汰は一人、心が更に騒ついていた。
受け取らないで……。そう、心の中で願った。
「……気が向いたらな」
でも、そんな十汰の気持ちに気付かず、漢助は絢に渡されたその紙を受け取ってしまう。
(受け取っちゃうんだ……)
恋人が目の前にいるのに、自分に気がある女の連絡先を受け取るなんて。
無神経なのか、無自覚なのか、能無しなのか。
漢助の心理が分からない。
最初のコメントを投稿しよう!