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エレベーターが五階に止まると、さきえは少しだけ歩みを躊躇う仕草を見せていた。
でも、ここで躊躇っていても仕方ない。漢助の手を借りて、真実を知らなければ。そう感じる意思を、十汰は横にいて感じた。
「ここの503号室です」
さきえはそう言うと、震える手で鍵を握りガチャッと扉を開けた。
「どうぞ……」
「お邪魔します」
漢助が先に入り、その次に十汰が入った。
部屋の中はその当時のままなのか、物がまだ揃っていた。
「部屋はそのままですか?」
そう漢助が尋ねると、さきえは直ぐに頷いた。
「はい。まだ、片付ける気にはなれなくて……」
「そうですか……」
漢助は部屋の中心部であるリビングに入ると、その鋭い眼光を光らせ辺りを隈なくチェックしていた。
その集中する姿に、十汰は息をする事も躊躇いそうになる。
でも、そんな漢助を見ると十汰も何か少しでも手伝いたいと思うようになり、さきえと二人で寝室へと向かった。
「雪音さん。綺麗好きなんですね」
玄関から思った事だけれど、雪音はとてもきっちりとした清潔感のある女性だと思った。
必要な物以外はあまり置かず、埃やゴミを発生させないような工夫をちゃんとしていた。
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