第1章 探偵

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*** 「うわ……雨だ……」  学校が終わるのを待っていたかのように、外は雨が降っていた。そんな空を見て、十汰は大学の講義を終えるとすぐに帰宅した。  そこは血縁者が待つ家ではない。十汰は訳あって想い人の元で暮らしているのだった。 【伊達坂探偵事務所】  そこは、商店街を通り過ぎて二つ目の信号を右に曲がった五階建の古びたビルの中にある事務所だ。  一階はコンビニ、二階、三階は芸能関係の事務所で、四階は法律事務所。  そんな人通りが多い事務所の中、何故か最上階にこの伊達坂探偵事務所はあった。  依頼人なんて一日一人か二人。来ない日だってある。なのに、何処にそんなお金があるのか、屋上もあるこの最上階を漢助の事務所は陣取っていた。  十汰はビルの中に入ると、エレベーターのボタンを押そうとした。けれど、丁度良いタイミングでエレベーターが下に降りて来て一階で止まる。  ラッキーだ。 「あ、すみません」 「……」  エレベーターが一階に着くと、中から黒服を来たノッポの男がゆらりと出て来た。中に人がいたとは思ってもいなかった十汰は、真ん中に立っていたのを少しだけ左に寄り、中の人間を先に出した。  けれど、その男とすれ違いざまに少しだけ身体がぶつかってしまい、十汰は直ぐに謝った。  どう見ても自分が悪い。  そんな十汰に、男は無言で小さく頭を下げると、ふらっと一階にあるコンビニの中へと行ってしまった。  初めて見る男だったので、そのルックスから、二、三階に入っている芸能事務所に所属している人間かなっと思った十汰は、そこまでその男に対して何も考えなかった。
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