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そこまで深く自身の会社を愛せる人はなかなかいないだろう。でも、さきえは仕事に対する熱意や想いは強く、だからこそ、ここまで生き残ってこれているのだと十汰には思える。
当の本人は、そんな事ないと言っていたけれど、十汰にはさきえの凄さが二度会っただけなのに分かった。
そんなさきえを分かっているから、雪音も会社を継ぐ意志が芽生えたのかもしれない。
「受付カウンターは目の前のあそこだね」
十汰は前方にいる受付嬢を見付け、そう漢助に言った。
そして、十汰は先頭を切って二人いる受付嬢の正面から見て右にいるショートボブの子に話し掛けた。
「あの、俺伊達坂たん……ングッ!」
ても、突然、漢助に口を押さえられた。
その行動に、どうしてっと驚いた視線を送る十汰。その視線を無視し、漢助が女性に話し掛ける。
「葉山さきえさんから連絡を頂き来たんですが、連絡は行ってますか?」
「社長からですか? いえ、来ていません。今、確認致しますので、少々お待ちください」
「よろしく」
漢助はペコッと軽く頭を下げる。そんな漢助に、受付嬢二人は頬を染め、女の顔に変わっていたのだった。
「ぷはっ。な、なんで口押さえるの!?」
受付嬢二人が仕事をしている間、十汰は漢助の手から逃れて押さえられていた口を解放した。そして、そう聞く。
「お前、馬鹿だろ」
「え……?」
「来て早々探偵なんて名乗ったら警戒されるに決まってるだろーが。最初は警戒心を与えないように接近するのが探偵として重要なんだよ」
「そ、そっか……」
そう言われると確かにそうだ。
第一声から、〝探偵です〟とか名乗ったら誰もが警戒するだろう。特に、ここでは最近雪音が亡くなっている。
余計、敏感になっているに違いない。
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