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男が身に付けているエプロンを見ると、そこには〝タオリフラワーショップ〟と書かれていた。
それを見て、もしかしてと十汰は思った。
「あの、このお花作ったのってあなたですか?」
そう聞くと、男は恥ずかしそうにコクッと頷いた。
「は、はい。ぼ、僕です」
そう言って、男は額の汗を拭いながら、十汰に胸ポケットから取り出した名刺を渡して来た。
「ぼ、僕は他織長信と言います。……ここの会社の花は私の会社が管理させて頂いてるんです」
「えっ! 他織って事は社長さんですか!?」
にしては若く見えるけれど。
「い、いえ。あっ、父がオーナーで、僕はただの従業員です」
「でも、凄いです! こんなに綺麗なアレンジメントができるなんて!」
「む、昔から花が好きで。引き篭もりだった僕の為に父がこの花屋を開いてくれて……だから……色々と勉強して……」
「へー。努力家なんですね」
いくら花が好きでも、こんな風に芸術的に作る事はできないと思う。
長信には何か秘めた才能があり、それを理解してくれていた長信の父親が、その才能を生かす事ができる仕事場を与えてくれたに違いない。
十汰にはそう思えた。
「か、かすみ草が一番好きで。かすみ草をたくさん使ったアレンジメントが得意なんです」
「そっか。だから、かすみ草がふんだんに使われてるんですね」
「は、はい。そうなんです」
長信はそう言うと、ニコッと笑った。
その笑みに釣られ、十汰もニコッと笑う。
「十汰君もかすみ草が好きなら、今度僕のお店に来て下さい」
「あ、はい……行きま……」
「お前、誰と話してるんだ」
「漢助!」
「青葉さん来たぞ。かすみ草の話しなんてしてないで、早く来い」
「う、うん!」
漢助はそう言うと、スタスタと行ってしまう。
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