353人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
耳も良い漢助は、長信との会話を全て聞いていたようだ。
なんて地獄耳。
「じゃ、俺行きますね。そのうち行けたら行きます」
「は、はい。ぜひ来て下さいっ! 待ってます!」
その言葉に、十汰は小さくコクッと頷き、ヒラヒラッと長信に向かって手を振った。
そして、漢助の元に駆け寄るのだった。
でも、ふと何かが引っかかる。
長信の言葉の中に、その引っかかる何かがあった気がした。けれど、答えが出ない。
「ま、いっか」
十汰はそんな事はもういいやと忘れ、漢助の隣に着いた。そして、こっちに向かって来た男に頭を下げる。
「青葉新さんですか?」
男が十汰達の近くに来た瞬間、漢助がその男にそう尋ねた。
「はい。お二人は探偵事務所の方ですよね? 社長から話しは聞いてます」
男は雪音と最後に会っていた男、新で合っていた。高校時の写真でその顔を見てはいたが、その時よりも遙かに大人びていた新は、一瞬違う人間かなと思わせるほどの成長ぶりで、十汰は少しだけ驚いた。
人間、こんなにも成長できるのか。そう思わせるほどの変貌ぶりだ。
もしかしたら自分も---なんて期待もしてしまう。
「近くに個室があるカフェがあるので、そこに移動しても良いですか?」
「あ、はい」
新にそう言われ、十汰達は新の後を付いて行く。
会社から然程離れていない場所に、そのカフェはあった。
レトロ感のあるそこは、知ってる人しか来ないのか、ランチ時間だと言うのにあまり客はいなかった。
「マスター、奥空いてます?」
「空いてるよー。使いな使いな」
「ありがとうございます」
新はここのマスターと顔馴染みのようで、死角になっている奥の部屋を指定していた。
最初のコメントを投稿しよう!