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そこは、ここからは見えない場所で、ちゃんと扉もある場所だった。
「時々、雪音ともここを使って食べたりしてたんです……」
中に入り、椅子に腰掛けると、新が切ない顔でそう言ってきた。
ここに来て、雪音の事を強く思い出したようだ。
さきえが見せた表情のように、その顔は辛そうだった。
先に十汰達はメニューを頼み、それが届けられた後、本題に入る。
「私達があなたに会いに来た理由もご存知ですよね?」
先に口を開いたのは漢助で、新は運ばれて来たアイスコーヒーを一口飲み、答えてくれた。
「はい。全て社長から聞いてます」
「なら、話しは早い。その日、雪音さんと会った時間、内容、別れた時間を詳しく教えて下さい。内容は、言いたくない所があれば伏せて結構です」
そう言って、漢助は頼んだハーブティーを飲む。
「あの日は……姉の月命日で、久しぶりに二人で飲んだんです。仕事が片付いてから行ったので、会った時間は夜の七時過ぎ。内容は、姉の薫の話しでした」
「お姉さんの薫さんと雪音さんはとても仲が良かったと聞きましたが、あなたから見てもそうですか?」
「はい。二人は本当に仲が良くて……俺の入る隙なんて小さい頃から無かったです。でも、二人は面倒見が良い性格だったので、俺が一人でいるといつも仲間に入れてくれました……」
三人でいるのが当たり前。
でも、それは二人が新の事を可愛がっていたからこそそうなっていたと、新は言った。
「俺は、本当の姉と、血は繋がって無いけど……俺を弟として可愛がってくれていた姉を亡くしたって事になります……」
そう言って涙ぐむ新。
テーブルの下に隠された両手を強く握り、誰にぶつけて良いのか分からない憤りを我慢していた。
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