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人の気持ちを全て理解する事は不可能だ。
でも、その目尻に溜まった涙が新の気持ちを現しているようで、雪音に対する気持ちが伝わって来た。
「実は……あの夜。俺は雪音に好きだと伝えたんだ……」
「え……?」
「この頃の雪音が、なんだか弱ってる気がしてさ……。それを見てて……俺が側で支えたいって思った……」
「でも奥さんが……」
いるのに……。そう言おうとして、十汰は咄嗟に言葉を止める。
新は妻がいるのにも関わらず、そう自分の正直な気持ちを雪音に話してしまったようだ。
「うん……。自分でも馬鹿だと思う。雪音にもこっ酷く説教されて振られたよ。今のは聞かなかった事にする。もし、そんな事をまた言うのなら、俺とはもう会わないって……」
でも、ありがとう。そう、雪音は新に言ったらしい。
そして、手に持っていたピンク色の珍しいかすみ草の花束を別れ際に笑顔で渡してきたと言う。
今まで貶される事はあったけれど、感謝の言葉を言われた事は無かった新は、その時何故か雪音を抱き締めたくなった。そう言った。
そして、それが新に見せた雪音の最後の笑みになってしまった。
「俺があんな事言ったから……いつもより早めに別れたんだ……。妻の所に早く帰りな……そう言われた」
「青葉さん……」
「俺があんな事言わなければ……最後まで送り届けてれば……雪音は死なずに済んだ……っ」
新の目からポロポロと涙が溢れ出した。
新はずっと、この気持ちを一人心の中で隠し続けていたようだ。
「俺のせいだ……」
とても包容力のある妻がいる。でも、昔から愛している女性がいる。
その女性が、いつもとは違う弱さを出していたら、自分がどうにかしてあげたい。そう思うのは仕方のない事だと十汰には思えた。
でもそれは、他の人間からしたら受け入れ難い事なのかもしれない。
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