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浮気。不倫。
そんな事に背中を押す人間はいない。
「雪音さんが弱っていたのはいつ頃からですか?」
「漢助……」
漢助がタイミング良くトイレから戻って来た。
そして、話しを何処まで聞いていたのかわからないが、最後の気になる部分を新に尋ねて来た。
その漢助の登場に、新は側に置いてあった数枚のナプキンを手に取って目元を拭い始めた。
「……今年の三月頃だと思います。その日も姉の月命日で、久しぶりに二人で飲んだんです。その時、何だか疲れてるなって思って……。でも、詳しい事は話してくれませんでした」
「そうですか……」
漢助は腕を組み、二度頷いた。そんな漢助に、新が逆に聞く。
「あの……雪音は本当に事故死なんですか? 社長から……自殺っだって聞いてるんですけど……俺は未だにそれが信じられないんです……」
「今は何もお応えできません……」
「でも、社長が探偵を雇ったって事は、警察の判断がまだ信じられないからですよね? なら、俺もまだ雪音の死因を判断しちゃいけないって……事ですよね……っ」
「青葉さん……」
「何かしら理由がある。俺にはそうしか思えない。あの日だって、アルコールなんてそんなに飲んで無かったんです。なのに、なんでアルコールが原因になるのか俺には分からない……。飲む前にはちゃんと何かしら食べてたし、帰る時は慌てた様子も無くて走ってもいない……なのに……」
「雪音さんの足取りは普通でしたか?」
「え?」
「ふらついたり、前に進めなかったり。してませんでしたか?」
「はい。ちゃんと足取りは普通でしたし、階段を上る姿も見ました」
「そうですか……」
二人の会話がシーンとなる。
お互い、言いたい事、聞きたい事を聞けたようだ。
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