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それを、新は両手で受け取ってくれた。
そして、その名刺を見て新が十汰に言う。
「もし、何かしら雪音の死因について分かったら……俺にも教えて下さい」
でも、その言葉に十汰は困惑してしまい、すぐに返事は返せなかった。
だって、依頼内容を依頼主であるさきえ以外に話す事は許されないと、まだまだ未熟な十汰でさえそれは分かっていた。
「えっと……」
そんな十汰を見て新は切なく笑い、大人の対応をしてくれたのだった。
「ごめん。今のは忘れて……」
「すみません……」
「いや、俺の方が悪かったよ。そんな事、言えるわけないよね」
「……すみません」
十汰は二度、新に謝った。
本当は、新に〝分かりました。良いですよ〟と言ってあげたかった。
でも、言えない。それは、言ってはいけない。
十汰は、まだここで休んで行くと言う新を一人部屋に置き、無言で一礼すると漢助の後を追ったのだった。
「何か言われたか?」
出入口でガムを噛みながら十汰を待つ漢助がそう聞いてくる。
その顔は、十汰が新に何を言われたのか分かっているようだ。
「真相が分かったら教えて欲しいって言われた……」
「そうか……」
「でも、俺……その返答に困って……何も返せなかった。そんな俺を気遣って、青葉さん……今のは忘れてくれって……」
悲しそうな新の表情。
それに、あの涙。
十汰は心が痛くなる。もどかしいのだ。新の気持ちを考えると……。
「そうか……そのお前の選択は正しいよ」
「漢助……」
「この依頼。雪音さんの死因には誰かが関わっている……。それが誰なのかまだ分からないが……それが分かったとして、青葉さんに伝えたらどうなるか……想像つくよな」
「うん……俺もそれを考えた……。だから良いよって言えなかった……。だって、青葉さん雪音さんをまだ愛してる。それに……自分を責めてる……」
新は雪音が亡くなった事を自分のせいだと言っていた。
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