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そんな長信を、漢助はジッと無言で見詰めていた。
「アルコールを飲んで運転したと聞きました。少しだけ飲んだとしても……車に乗るのはよくないですよね」
そう言って、長信は漢助に写真を返す。
「とても素敵な女性でしたよ。笑顔で僕なんかに挨拶してくれるし……ここにも会社帰りに顔を出してくれました」
「確かに、ここは会社と雪音さんのマンションの丁度真ん中辺りにありますもんね」
「そうなんです。時々、花も買って下さってたので……亡くなったと知って驚きました」
「そうですか……貴重な情報をありがとうございました」
「いえ、こんな話しで探偵さんのお役に立てれば嬉しいです」
漢助は長信にいつもは見せない笑みを薄く浮かべ、会社方面に歩き出す。
「あ、また近くに寄ったら来ますね」
「うん、また来てね。十汰君が来るの楽しみにしてる」
「はい」
十汰は長信にペコッと頭を下げ、漢助の元へと駆け寄った。
「あの男……」
「ん? なに?」
「いや、なんでもない……」
「?」
漢助が何かを言おうとして辞めたので、十汰は小首を傾げた。
でも、聞いても教えてくれないと思った十汰は、深く追求する事はしない。
漢助がなんでもないと言うのなら、なんでもないのだ。
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