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雪音は本当に性格が良い女性だったようだ。社長の娘だからと言って態度が大きくなるわけではなく、仕事をサボるわけでもない。
ちゃんと一社員として働き、後輩の育成や周りのサポートも熟す、心優しい女性だったと咲子は言う。
「時々二人で飲んだりもしたんだよ。ここにも、何回か来た事があって……あっ」
「ど、どうしました!?」
当然、咲子が何かを思い出したような声を上げた。その声に、ずっと黙っていた十汰が声を掛ける。
「あ、なんでもなーい」
「?」
咲子はチラッと十汰を見ると、クスクスッと笑い漢助に視線を戻す。
「ねぇねぇ、漢助さんって独身?」
「……そうだが」
「ならさ、二軒目行かない?」
咲子は大きな胸を強調するようにテーブルに両肘を付き、小首を傾げ漢助にそう言った。
それは見るからに誘っている仕草だった。
「良い感じのBARがすぐそこにあるんだけど、カップル向きで一回も行った事ないんだ。そこに行けば何か思い出すかも」
なんでそんなBARに行ったら思い出すんだよッ! 十汰の心は天候が荒れた海のようにザパーンッと波打った。そろそろ、我慢の限界だ。
「あのッ!」
「……そこのバーテンは優秀か?」
「うん! すごくお酒の種類もあって、自分好みに作ってくれるよ!」
「そうか……」
「漢助……?」
まさか。そう思った。
「なら、行こう」
「漢助ッ!?」
まさかの承諾。
嘘だろっと十汰は声を出してしまう。
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