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まさか、本当にそんな誘いに乗るなんて。
十汰は信じられないと言う目で漢助を見詰めた。
「じゃ、早く行こっか」
「お、俺も行……」
「ごめんねー。そこ、カップルしか入れないの。三人で行くと中に通して貰えないんだ」
「えっ! そ、そんな……」
場所、あるのかよッ。
なんて店だ。十汰は自分の知らない世界に動揺を隠せない。
「じゃ、お留守番よろしく」
「漢助ぇ……」
そう言って、咲子に腕を引かれながら立ち上がった漢助は、ポンっと優しく十汰の頭を叩く。その手を、十汰はバシッと叩いて払い除け、睨め付ける。
恋人が隣にいるのに、女の誘いに簡単に乗るなんて。これを浮気と言わず、何と言うのだろうか。
「すぐに帰るよ」
咲子に聞こえないように、漢助が小声で十汰にそう言った。
その言葉に、ふんっと言ってそっぽを向いた十汰は、すぐさま、ウエーターに勢い良く手を上げてカシスソーダを頼んだ。
「お前、飲み過ぎるなよ」
「別にいいだろっ。これ飲んだら帰るもんっ!」
「じゃ、会計済ませとくから、それ飲んだらすぐに家に戻ってろ。寄り道するなよ」
「……」
「返事しろ」
「……」
「ちょっと、何コソコソ話してるのー? 漢助さん、早く行こうっ」
漢助の腕を掴んでいた咲子は、漢助がコソコソと十汰と話している事が気に食わなくなったのか、掴んでいた漢助の腕を強引に自身に引っ張り、先を急いだ。
それに引っ張られるように、漢助は咲子と腕を組んだまま店を出て言った。
「浮気助……」
漢助ならぬ、浮気助。
アイツは今日から浮気助探偵と命名してやる。そう内心で言いながら、十汰は運ばれて来た二杯目のカシスソーダを一気に飲んだ。
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