第1章 探偵

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 傘を忘れ、雨に濡れたからかもしれない。  それは、あの時と同じような状況と言えるのだった。だから、震えが止まらないのだ。 「ほら、こっち来い」 「え……?」 「え、じゃねーよ。たくっ、ほら」  そう言って、漢助が両手を広げる。それは、ここに来いと言っているらしく、不機嫌そうな顔のまま、十汰がその腕の中に入るのを待っていた。 「う、うん……」  十汰は恥ずかしそうに、でも、心の中では舞い上がる気持ちを抱きながら、両手を広げて待っている漢助の腕の中に身体を預けた。 「少しは落ち着きそうか?」 「うん。なんかね、落ち着いていくのが分かるよ」  そう言って、十汰は目を閉じる。  閉じると、震えが止まって行くのが更に分かった。  それに、この温もりをずっと求めていたと言っているように、身体が落ち着きを取り戻す。 「そうか。なら、このまま寝ろ。勉強ばっかりしてるとハゲるぞ」 「ハゲるとか。酷い……」  その言葉はいつだって冷たい。でも、漢助が不器用で、優しい事は誰よりも知っている。だから、十汰にはその言葉は嬉しい気遣いだった。  それは、その言葉の中に、『こんな日に一人にして悪かった』と含まれているのが分かるからかもしれない。 「ゆっくり休め。俺はここにいる」 「う……ん……。漢助……ありが……と……」    未だに慣れないこの漢助との距離感。去年まで片想いしていた相手に、今は抱き締められている。
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