第4章 行動

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 あの写真は、お面の男に拉致される数時間前の自分。  だって、その時持っていたスクールバッグには、その日に付けたばかりの犬のキーホルダーが付いていた。  そして、そのキーホルダーはその日のうちに無くした。  だから、その写真は確実に拉致される前の写真なのだ。  傘を差した自分はその数十分後、般若でお面を被った男に背後から声を掛けられ、人気の無い公衆トイレに無理矢理連れて行かれた。  まだ今よりも少しだけ華奢だった十汰は、抵抗も虚しく口を塞がれ、嗅がされた薬品で意識が朦朧とする中、引き摺られるようにトイレの一室へと拉致されたのだった。 「俺……ここにはいれないっ」  また、あんな思いはしたくはない。  耳に残る男の声。  さっき触られたらしい腹部の違和感。  その全てから逃げ出したい。 「十汰待て、外には出るな!」 「いやだっ! どっか、どっか遠くに行くッ!」 「大丈夫だ! 俺が側にいる!」 「いやあっ! 怖いっ! 怖いッ!」  ここなら安心だと思った。  実家から離れているし、側には漢助がいる。でも、でも駄目だった。  あの男はここに来た。  見付かった。見付かってしまった。 「十汰ッ! 大丈夫だッ! 大丈夫だから!」 「大丈夫じゃないよっ。俺、怖い……怖いよぉ…漢助っ」  そんな十汰を宥めるように、漢助が後ろから抱き締める。  でも、漢助の口からはアルコールの臭いがし、服からは咲子の香水が香った。  その二つの臭いを嗅ぎ、十汰は狂ったように漢助の身体をグッと押して距離を取った。 「俺が側にいるって言いながら、女と寝てたの誰だよ!」 「十汰?」 「俺の事好きって言ってくれても抱いてはくれないのに、女なら良いのかよ!」 「おい、なに勘違いして……」 「勘違い? 下心見え見えの加納さんの誘いに乗ったじゃん! 抱いたんだろ? 良いよ、ちゃんと言って」 「抱いてない。抱くわけないだろ」 「嘘だッ! 俺なんかより女の方が良いの分かってるよ! だって、漢助はストレートだろ? ゲイじゃない! 俺は、俺は漢助しか好きになった事ないから分からないけど、でも、漢助は女の人と付き合える。俺は漢助しか駄目なのに……」  なんでこんな重たい男になってしまっているのだろう。こんな事、言うつもりなんて無かったのに。
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