353人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
ても、漢助から臭うアルコールと香水が、十汰をそうさせるのだった。
「探偵はそこまでするの? 恋人の目の前で女の誘いに乗ってさ……二人で飲んで、その後は……なんて想像できるよ」
「想像って……お前なぁ……」
「だって、加納さんは何か知ってた。でも、それをその場では言わなかった……。焦らして、漢助にその対価を求めようとしてた。そんなの、彼女の顔見てれば分かるよ……」
モテる男を好きになってしまったものだ。
なんで、こんな男を好きになったのだろうか。
「確かに、言われた。雪音さんについて詳しい話しを聞きたければホテルで話すって」
「ほら、やっぱり……」
「でもな、俺がそんな事言いそうな女に手ぶらで会いに行くと思うか?」
「え……?」
「ちゃんと素性を調べて会いに行ってんだよ」
そう言って、胸ポケットから一枚の写真を取り出し見せる漢助。
その写真には、咲子が中年の男とホテルに入って行く所が写っていた。
「この女、売春してるんだよ」
「ええ!」
漢助はそうサラッと言うと、十汰の身体をまた強く抱き締めた。次は、正面からだ。
「お前、俺の事信じてないのか?」
「……」
その言葉に声が出ない。
自分はなんで漢助の事を信じ続ける事ができなかったのか、そう思うと恋人として、相棒として失格に思えた。
「まぁ、俺も悪いけどな」
「え……?」
「お前を不安にさせた。一人にさせた……他の男に触らせた……」
「漢助……」
「俺の方が、恋人として失格だ」
「そんなっ……」
漢助は何も悪くない。
悪いのは仕事を理解していると思い込んでいた自分が勝手に嫉妬して、過去を思い出しパニックに陥った自分の方だ。
最初のコメントを投稿しよう!