第4章 行動

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 もう大丈夫。自分は強くなったと思っていたのに、いざ同じ思いをした瞬間、こんなみっともない行動を取ってしまった。あと、発言。  こんなの八つ当たりだ。 「ごめんっ、漢助……俺」  十汰は漢助にしがみ付き、何度も謝った。  漢助は悪くない。信じきれなかった自分が悪い。だから、別れるなんて一瞬でも思わないで。 「良いよ。つーか、謝るな。お前は何も悪くない。今も、昔も……」 「漢助……」 「だろ?」  その優しい口調。あの時も、同じ事を言われた---五年前、半裸状態だった十汰に漢助は着ていたジャケットを着せてくれた。そして、腰を抜かした十汰の身体を軽々と抱き上げ、自身の車の後部座席にそっと乗せてくれたのだった。  十汰は自身の身形に羞恥心が溢れ、震える指で漢助が拾ってくれた自身の服を着ようとしたが、震えが酷くて着ることがなかなかできず、苦戦していた。  そんな十汰を見て、漢助が運転席から一度降り、後部座席へと移り、貸してみろと言って半袖のワイシャツのボタンを一つ一つ留めてくれたのだった。  そんな漢助の優しさに十汰は申し訳なくなって、「ごめんなさい……」そう小声で言うと、その言葉に、漢助はピタッと動きを止め、謝るなと言ってくれた。  お前は悪くない。そう言った漢助の表情は、逃げた般若の面を被った男に対しての憤りが滲み出ていて、強面の顔が更に迫力を増していたのだった。 「俺、助けに来てくれたのが漢助だったから……こんな風に今、笑っていられてると思う」 「ふっ。大袈裟だな」 「大袈裟じゃないよ。漢助が、ずっと側にいてくれたから、俺、少しは強くなれたんだよ」  もし、あの時漢助が来なかったら、自分はどうなっていたか分からない。  運良く逃げる事ができたとしても、般若の面を被った男は野放し状態のままだ。その状況に、十汰は一人で耐える事はできなかったと思う。
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