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家から出ず、学校にも行く事ができないほど警戒した人生になっていたかもしれない。
「あの後、県警に迎えに来た父さんと母さんが……男に襲われた俺を厄介な人間だって言った時、怒ってくれたのも嬉しかったよ」
「あー。そんな事もあったな」
「あの二人は世間体と兄さんにしか興味無いから……こんな軟弱な俺の味方になってくれるのは誰もいないと思ってた……。だから、漢助が人間不信になった俺の面倒を見ても良いって言ってくれた時……俺……一生漢助の側にいたいって思ったんだ」
男のくせに男に襲われた息子をいつ手放そうかと考えていた父親。そんな父親の考えと、できの悪い息子をどう兄のように育てるかと悩む母親。
あと、自分のしでかした過ちを全て父親に任せ、自分はしたい事だけをして生きている年の離れた兄。
そんな家庭環境で療養しても治るわけがない。そう言ってくれた漢助は、部屋の端にいた十汰の細い腕を掴んで自身に引き寄せ、窮屈な世界から新しい世界へと連れ出してくれたのだった。
「こんな風に自分を出せるのは漢助のお陰……全部、漢助のお陰だよ」
そう言って、十汰は漢助の太い首に腕を伸ばしてぎゅっと抱き付く。
そして、頬を寄せ、チュッとその薄い唇にキスをするのだった。
「だいすき」
十汰は漢助に向けてその四文字を言うと、ニコッと笑った。
その笑みを見て、いつも不機嫌そうな顔をしている漢助の頬が一瞬緩むのが分かった。それを見ただけで、十汰の心が蕾から花が開花したかのように満たされる。
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