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口下手な漢助の表情が一瞬でも緩んだ。
それは、日頃顔には出さない漢助が時折見せる貴重な感情の現れなのだ。
十汰の言った〝大好き〟が、ちゃんと漢助の心にも響いている。嬉しいと言っている。
それが、とても嬉しい。
「ねぇ、漢助……」
「ん? なんだ?」
「側にいてくれてありがとね」
そう十汰は心の底から想った気持ちを素直に漢助に述べた。
「急にどうしたんだよ……」
「なんか、言いたくなって……」
「ふっ。変な奴……」
漢助が側にいる事は決して当たり前の事ではない。
漢助が十汰の事を引き取ってくれなければ、こんな風に一緒になる事は絶対に無かった。それに、漢助が刑事を辞めたからこそ、今の生活が成り立っている。
でも、何故漢助は刑事を辞めたのだろう。ふと、十汰はそんな事が頭に浮かんだ。
助けてくれた時はまだ刑事だった漢助。十汰を引き取ってくれた日、刑事を辞めて探偵になった。
その間は僅か一週間も無かったはずだ。
その間に自分の中で何かが変わったのだと、前に漢助に聞いた時にそう言われた。
その時は、ふーんっと軽く納得したが、この依頼で知ってしまった絢の存在により、漢助の過去を更に知りたいと思った十汰。
恋人だから、相棒だから。そう思うから、漢助の事をちゃんと知りたい。そう心の中で強く、強く強く思った。
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