第5章 真実

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 その話しを、十汰やさきえ、そして、絢も真剣に聞く。 「雪音さんはこの男に去年の今頃、会社内で出会ったそうです。その時、雪音さんはこの男が配達して来たかすみ草の花籠を見てとても感動し、タオリフラワーショップにも会社帰りに足を運ぶようになったそうです……」  そう言って、漢助は一枚のコピー用紙とぺんをテーブルに置き、また話す。 「雪音さんは男の事を友人の一人と考えていたようですが、この男は違かった。日に日に雪音さんに対しての好意が増していき、今年の一月に雪音さんのマンション付近にこの男が現れたようです。それに気付いた雪音さんは、後輩の方にこの話しをさらっと軽く話した。本人は、偶然だと思うから……そう言っていたようで、その口ぶりから取ると、本人はこの事に関して深くは考えていなかったようです」  雪音は長信との関係を壊さないよう、この事を深く考えないようにしていた。仕事上、毎日のように会う関係。それを壊すにはいかない。その気持ちが強かったようだ。 「でも、ある日。部屋の中で違和感を感じたようで、その次の日から男の行動が更におかしくなった……」 「おかしくなったって……どう言う事……?」 「待ち伏せされる事が多くなったらしい」 「待ち伏せ!?」  十汰はその言葉を聞いて、サーっと血の気が引いた。目の前に座るさきえも同じ顔をしてる。 「この二枚の写真を見て下さい」  そう言って、懐から取り出した二枚の写真。 「この日付って……」 「はい。雪音さんが事故を起こした日の数時間前の物です。ここに座っているのが雪音さんと青葉さん。その奥の席に座ってるのが……その男です」  その漢助の指先に小さく写る一人の男。そこには、黒い服に包まれ、静かに雪音の事を見詰める長信が座っていた。
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