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でも、写真に写る長信は小さくて、しかも、着ている服が黒くて確信が得難い。
それに、防犯カメラの写りもそこまで良くないので、今までこんな荒い写真を見た事が無い十汰やさきえには、ハッキリとした顔が判別できなかった。
「俺には……これが他織さんだって自信持って言えないかも……」
「そうね……私も……」
「まぁ、そうだよな……おい、土竜」
土竜。そう漢助が出入り口のドアに向かって言った。すると、ドアが静かに開き、その奥にはノッポの男が背中を丸めて立っていた。
「…………帰ろうと思ってたのに」
そう言って、ハァーっと盛大な溜息を吐く土竜と呼ばれた男。
ノートパソコンを持ちながら、のそのそっとゆっくりと事務所の中に入る。そして、十汰にだけ小さく頭を下げる。それに釣られ、十汰も慌てて頭を下げた。
「待機って言っただろ。ほら、早く準備しろ」
「……人使い荒い」
男はそう言いながら、手早くノートパソコンを開き、写真をスキャンしてパソコンの中に取り込んだ。
「ねぇ、漢助……この人誰?」
男が気怠そうにパソコンを弄っているのを見詰めながら、十汰は漢助の耳元にそう静かに尋ねた。
そんな十汰に、漢助は男の正体を教えてくれた。
「コイツは、土竜平。俺と誠が利用してる情報屋兼ハッカー。まぁ、手先も器用だから何でも屋だな」
「じょ、情報屋っ!」
「そう。で、誠の所に住み着いてる根暗男。俺達の中では土竜って呼んでる……見たまんまの変わった男だ」
そう言って、漢助は竜平を見る。そんな漢助に、竜平は不機嫌そうな顔を更に不機嫌にし、カチカチと無言で手を動かしていた。
「あ、この人……」
十汰は竜平の横顔を見てふと思い出した。そう、竜平とは前にビルのエレベーターですれ違った事があるのだ。
その時、初めて竜平を見て、最初はそのスラッとしたルックスから、ビルの二、三階にある芸能事務所に所属しているモデルの人間かと思った。
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