第5章 真実

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 漢助は絢の正論をその言葉で捩じ伏せた。それは、絢が漢助の性格を良く分かっているからこそ深くは追求しないのだと、この場で十汰だけが気付いた。  漢助は絢にそう言うと、さっき用意した紙とペンを使い出した。  そして、すらすらっと絵を描き始めた。それは、雪音の暮らすマンションの駐車場だった。 「この後の様子は住宅地に入ってしまったので監視カメラや防犯カメラは見つからず、私の憶測でしかありません……聞きますか?」  そう漢助はさきえに尋ねた。その言葉に、さきえはこくっと頷き、漢助の手元にある紙を見詰める。 「……雪音さんはその後男の存在に気付き、マンションへと走り出したとします。その時、慌てていたせいでマンションの鍵ではなく車の鍵を取り出してしまった。その結果、雪音さんは部屋の中に入るよりも、身を守れると思って車の中に飛び乗った。でも、男は離れる事はなく、そのまま雪音さんに近付いて来た……」  漢助はそう言うと、雪音が止めていた駐車場の位置と、ぶつかった電信柱の位置をペンで指差し、その間に丸を描く。 「男はここに立ち、雪音さんに恐怖を与えた。それにより、雪音さんは逃げようとアルコールを飲んでいたにも関わらずエンジンを掛けた。でも、いつも通りの出方をする事を忘れ、そのまま前に突っ込んでしまった。その証拠に、雪音さんの運転した車はブレーキ痕は無く、そのまま真っ直ぐに突っ込んでしまった」  そのせいで、雪音は電信柱に自ら突っ込んでしまい、こんな結果になってしまった。そう、漢助は言う。 「それに、その日は雨が降っていた。その影響も大きかったと思います。そのせいで見通しが悪く、男の姿しか捉えられなかった……そう私は思います」 「そんな……」 「一階の方にもお聞きしましたが、ブレーキを掛ける音はしなかった代わりに、足音が慌てて走り去る音が聞こえたと言っていました」  通報したのはその一階の住人で、その全てを警察にも話したとも言っていたと漢助は言う。
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