第5章 真実

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 なのに、その真実を警察はさきえには話していなかった。  それに、さきえに借りた雪音に関して記された新聞にも、そんな事は書かれていなかった。 「で、でも……立ち去る足音が聞こえてたなら事件性だってあったはず。なのに、なんでその場にいた人達(警察)は、それを捜査しなかったのよ。私も、そんな事誰からも聞いてないわよ」  その証言を聞き、一番先に反応を見せたのは絢だった。もし、それが事実なら警察が動かないわけがない。なのに、動かなかった。しかも、証言を無かった事にしている。……何故?  十汰にも全く分からない。 「上からの圧があったから……」  竜平がボソッと小さくそう言った。  その言葉に、絢が憤慨した。  同じ警察官が、そんな隠蔽するわけがない。警察官に誇りを持つ絢にとって、その竜平の言葉は腹立たしい物だったようだ。 「アルコールは検出されてた。それは間違いなく事実。その結果、雪音は自ら間違って電柱へと突っ込んでしまった。それが真実よ! 警察官が隠蔽だなんて、するわけがないわ!」 「でも、アルコール度数は低かった。一緒に飲んでいた奴の証言を聞いても、雪音さんがその程度で酔うわけがないと言う。雪音さんが男から逃げ、走ったとしても、意識が乱れる事は決してありえない。なのに、警察内では大量に飲んだと嘘を言い、新聞にさえそう書かせた。それ自体、隠蔽の証拠だ」 「それは……」 「他織は新聞に載っていなかった真実……雪音さんがアルコールをあまり飲んでいなかった事を知っていた。それは新聞には載っていなかった事だ。それを知っているのは一緒に飲んでいた青葉さんと、ストーキングしてその現場を一部始終見ていたコイツだけだ」  漢助にそう言われ、絢は勢いを無くす。  どれを信じたら良いのか分からなくなっているようだ。 「絢ちゃん……」 「……おばさん」  さきえが絢の強く握った拳を優しく握った。  そして、落ち着いてと優しい口調でそう告げる。その言葉に冷静になった絢が言う。 「……なんで私をここに呼んだのかようやく分かったわ」  そう言って、絢が盛大な溜息を吐く。そして、頭をガシガシッと掻き、漢助を見た。 「警察官内で何かがある。それを探れって?」 「あぁ。察しが早くて助かるな」 「……慣れてるからね」 「慣れてる……か」
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