第5章 真実

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 その言葉に漢助がフッと笑う。その表情は過去を懐かしむ物だった。  この二人、やっぱり何かある。  二人の間にしか分からない過去。  それは、今の漢助しか知らない十汰が、一番知りたい漢助の過去。  それを、絢は知っている。 「ねぇ、これって本当に上の圧なの? なら、お兄さんも関係してるんじゃ……」 「なら、アイツも一緒に吊るし上げれば良い。もし、その上も関係してるなら……その上もだ」  漢助はそう言うと、バンッと力強くテーブルを叩いた。 「漢助……?」  その目は憤りや軽蔑。そして、憎しみまでもが含まれているように見えた。その心理を絢だけは知っているようだ。でも、十汰は、漢助と絢の会話には入って行けず、ただ、黙って漢助を見詰める事しかできないでいた。  そして、その絢が言った〝お兄さん〟は誰なのか。それすらも聞けず、十汰は目の前のお茶を啜った。 「葉山さん。どうしますか」 「え……?」 「娘さんは、確かに自分で車を走らせ事故を起こし、亡くなってしまった。……それが、真実です。でも、その真実にはまだ何か隠されている。それを、あなたは知りたいですか?」  漢助は真剣な目でそうさきえに尋ねた。そんな漢助の真剣な眼差しに、さきえは震える声で言葉を話す。 「そ、そんなの……当たり前じゃないですか」 「なら、私と約束して下さい」 「え……?」 「復讐だけは考えないと」 「それは……」 「私は、あなたに復讐をさせる為に依頼を受けたわけじゃない。真実がこの男の手によって起きた事だったとしても、この男や、それに手を貸した人間に対し復讐だけは決して考えないで頂きたい」 「私は……」 「復讐をしても雪音さんは帰って来ない。それだけは、頭の中に入れて置いて頂きたい。それができないのなら、私はこれ以上先の仕事はできない」  漢助はそう言うと、胸ポケットに仕舞っていたガムを取り出して口に含む。それは、煙草を吸いたくなった証で、精神的に疲労や緊張が高まった時の癖だと十汰は知っていた。
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