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そんなさきえに、漢助が言う。
「タオリフラワーショップとはこのまま契約を続けていて下さい。変に行動を起こして警戒されると困るんで」
「はい。分かりました……」
「心中は複雑だと思いますが、ここは我慢して下さい」
「……はい。私は、あなた達を信じます」
そう言って、さきえは漢助に深く頭を下げ、事務所を出ようとする。
その後を十汰は追った。
「下まで送ります」
「あら、大丈夫よ」
「いえ、これも俺の仕事なんで……」
いや、これくらいしかできない。
依頼人を下まで送る事。それくらいなら、漢助は何も言わないと分かっているからこその行動だった。
「そう? なら、下までお話ししましょう」
「はい……」
エレベーターのボタンを押し、一階で止まっていたエレベーターがすぐに上へと上がって来て扉が開いた。そのエレベーターに乗り、十汰が一階のボタンを押す。
「何もできないって歯痒いわよね……」
「はい……」
「でも、伊達坂さんがそう判断したのには何かしらの理由があると私には思うわよ」
「何かしらの理由?」
「そう。だから、あまり落ち込んだりしちゃ駄目よ」
その言葉に、十汰は顔を赤面してしまう。
「俺、そんなに顔に出てますか?」
喜怒哀楽。それが顔や態度に直ぐに出てしまう十汰は、さきえにそう言われ、急に恥ずかしくなってしまう。
まるで子供のようじゃないか……。そう、思ったのだ。
「ふふっ。それがあなたの良い所よ」
「俺の良い所?」
でも、そんな十汰をさきえは褒める。
「そう。あなたの表情を見てると、とても安心するわ」
「安心?」
「裏表がないってとても素敵な事よ。あと、感情が分かるって事もね」
「そ、そんなにですか?」
「ええ。さっきもね、雪音の事故死の真相を聞いた時、私、心の中でそのストーカーをしていた人間をどうにかしてやりたいって思ってたの……でもね、ふとあなたの顔を見て、伊達坂さんに全てを任せようって思ったの」
「え……?」
「あなたは伊達坂さんを心から信じてる。ストーカーをしていたあの男や、この事故を隠蔽した人間、それをさせた人間を、絶対に伊達坂さんは捕まえるって、そう、信じ切ってる。それがね、あなたを見てて分かるの」
だから、漢助に任せようって思った。そう、さきえは言った。
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