第5章 真実

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 感謝の言葉を述べると、竜平は立ったまま無言でそのままエレベーターの中に入ろうとする。 「ちょっと待って!」  そう言って、十汰は竜平の腕を咄嗟に掴み、止めた。 「なに……?」  竜平はエレベーターに乗り損ねてしまい、エレベーターの扉が勝手に閉まる。  そして、下へと行ってしまったのだった。 「ちゃんとお礼言ってなかったから」 「……礼?」 「うん。この鍵、こんなに頑丈にしてくれたの土竜さんなんでしょ? だから、ありがとうって……言わないとと思って……」  十汰は漢助に鍵の事を聞き、竜平に礼を述べないとと思っていた。でも、さっきの中で言うタイミングは無く、今しかないと思ったのだった。 「別に……礼を言われるほどじゃない。ここのビルの防犯対策がなってないのは前々から気になってた。ここには三つの事務所が入ってるのに、とんだ馬鹿ばかりだ」  竜平はそう言うと、ハッとなり、悪いと十汰に言った。口調が早く、刺々しいのを気にしたようだ。そんなの別に気にしないのに。 「土竜さんって、結構喋れるんだね」  さっきの竜平を見てると、あまり口数が多そうには見えなかった。  ただ、時々自分が思った事を発言するだけで、後はスルー。  そんな男だと思っていたけれど、意外にもこっちから話し掛ければ話してくれる人ではないかと、十汰はそう思った。 「……喋るの好きじゃない」 「そうなんだ。俺、結構好き」  漢助があまり口数が多い人間ではないからか十汰が一方的に喋って漢助が頷くのが日常で、それが当たり前の事になっていた。  昔はこんなに話す人間ではなかったのだが、漢助が聞き上手なのか、それとも、黙って聞いてくれるからか、こんなにも話すようになった。
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