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でもそれは、十汰が得意としている料理で、それをリクエストされたのは嬉しかった。
「辛いの好きなの?」
エビチリと麻婆茄子は漢助が好物とする物で、少しだけ山椒を多く入れるのが味噌だった。
十汰はあまり辛いのが好きではないので、自分の分は別に分けているが、誠も辛いのが好きだと聞いてるので、誠に届けている料理は漢助と同じ物を届けていた。
漢助の場合、甘党なくせに辛い物も大好物な人間なのだが、誠の場合は違った。
甘い物が苦手で辛党一色の誠には、別途に山椒や七味を添えて渡していたのだ。
「すげー好き……」
それは竜平も同じらしく、コクッと頷くとお腹を鳴らしていたのだった。
「昼食べてないの?」
そう聞くと、パンを食べたと竜平は言う。
「それだけで足りるの?」
「……食うの面倒臭い」
「ハハッ。なにそれ」
その返答に笑ってしまう十汰。
お腹が鳴っているのに、食べるのが面倒臭いと言う人は初めてだ。
「じゃ、後で差し入れ持って行くよ。エビチリと麻婆茄子は材料が無いから作れないけど、チャーハンとニラ玉なら作れるからさ。ニラ大丈夫?」
「……平気」
「よかった」
十汰はそう言うと、竜平にまた後でと告げ、事務所の中に入った。そして、そのままキッチンへと向かおうとした。
けれど、事務所を通りその先のリビングに行くと、漢助と絢の話し声が聞こえ、十汰はドアの前で立ち止まった。
そして、磨りガラス越しに薄っすらと映る二人を見詰め、その会話を聞いてしまう。
「ねぇ、どうして警察を辞めたの……?」
「なんだよ突然」
「……だって、急だったじゃない。それに……私には何も言ってくれなかった」
絢はゆっくりと漢助の側に近付き、立ちながら資料を見詰めている漢助にそう聞く。
「私ってそんなに恋人として頼りなかった? 相棒として、必要じゃなかった?」
「絢……」
絢はそう言うと、大きくて太い漢助の左手に手を重ね、ジッと切なそうに漢助を見詰めていた。
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