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その空気はなんだか十汰にとったら嫌な物で、このまま二人が何処かへと行ってしまうような気がして不安が募った。
だって、咲子の時も思ったが、相手が美人の女性だと特に漢助には釣り合ってしまう。
それを見るだけで十汰は不安になってしまう。
あんなに大丈夫だと思ったのに……こんな風に良い雰囲気の場面を見てしまうとその自信が薄れてしまう。
自分の心の弱さに落胆してしまう。
「漢助が警察を辞めたのって……五年前の事がきっかけじゃないの?」
(え……?)
その絢の言葉に十汰は内心で驚く。
五年前の事---それはたぶん、十汰に関する拉致事件の事だ。
「あの十汰って子……その時の中学生じゃない?」
「良く覚えてるな……」
「……雰囲気が変わって最初は分からなかったけど、でも、雰囲気が変わって髪型が伸びてもあの可愛い顔は隠しきれてないわ」
「あいつ、童顔だからな」
ちょっと、それは陰口じゃないか! 人が気にしている顔の事を隠れて話してるなよと、十汰は二人の会話に頬をぷくっと膨らます。
「五年前、何があったの?」
「それは言えない」
「でも、それがあったから漢助は警察を辞めたのよね? あんなに大切にしてたお祖父さんとの約束、破る気なの?」
「破った気はない。それは、今も続いてる」
「それが、探偵業ってわけ?」
「あぁ。この仕事の方が性に合ってる。それに、自由に捜査できてる」
漢助はそう言うと、絢の目を見詰める。
納得してくれ。そう、目で訴えているようだ。
「警察内をコソコソと調べ、摘発の手伝いをしてる人間が存在するって聞いた事があるけど……それって漢助?」
「さぁ、知らないな。俺は、そんな大きな依頼、面倒臭くてやらないからな」
「……それが本当には私には聞こえないけど」
絢は切なそうな顔で漢助を見詰め、クスッと笑う。
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