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漢助のその言葉を、信じてはないようだ。
元カノの勘。
漢助の性格を知っているからこそ、そこまでの追及をしないのだ。
「お兄さんとは連絡取ってるの?」
「あいつと? 取るわけない」
「そう……二人目が産まれたそうよ」
「あ、そう」
漢助は実の兄について絢に話されても素っ気なかった。普通なら興味を持ちそうだけれど、漢助のその態度を見るとそれくらい仲が悪いようだ。
漢助に兄がいた事自体を初めて知った十汰は、絢が話す事に嫉妬してしまう。
「ねぇ、漢助……正直に話して」
「……なんだよ」
「五年前、もし、私が警察を辞めてあなたと一緒になってもいいって言ったら……あなたは私を一生のパートナーにしてくれてた?」
その質問に、驚いている漢助。
まさか、そんな事を聞かれるとは思ってもいなかったようだ。
十汰はその質問に対し、漢助がどう答えるのか知りたくて、でも、聞きたくなかった。
「それは……」
十汰は漢助が言葉を発する前に慌ててドアから離れ、その場から離れた。
やっぱり、聞けない。
十汰は事務所を出て、エレベーターに飛び乗った。そして、慌ててボタンを押して扉を閉める。
「ハァ……ハァ…ハァ……」
胸が痛い。
そんなに走ったわけではないのに。
「漢助……」
十汰はエレベーターの中、自身の心臓を強く押さえた。
漢助が警察を辞めた理由。それが自分なら、どうして言ってくれなかったのだろう。
漢助の信念が、〝人を助ける事〟ならば、警察官でいる事の方が良かったはずなのに---なぜ、探偵になんかなったのだろう。
十汰は五年前の未だ捕まらない犯人よりも、漢助のその時の状況を知りたくなった。
「俺が漢助の人生を変えてしまった……」
それが事実なら、自分は漢助の側にいない方がいいのではないだろうか。
もしかしたら、口や態度で表していないが、十汰を引き取った事を後悔しているのではないだろうか。
だから、未だ抱いてはくれないのではないだろうか。
そんな事ばかりが頭をグルグルと回り、エレベーターは十汰の今の気持ちのように、下へ下へと向かって行くのだった。
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