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――パチリと一度、大きく、静かに目を瞬いた。
どこからか吹くあたたかな風が、呆然と立ちすくむ俺の頬を撫で付ける。
手のひらサイズの小さな小瓶を手にしたまま、いつの間にか、俺はあの店の中から緑豊かな大草原の中に佇んでいた。
あたたかな陽射しが眩しく、草を揺らす風が心地よい。空には真っ白な鳥が飛び交い、元気な歌声を響かせている。
ああ、ここは、一体……。
「――じっちゃん!ばっちゃん!」
明るい声がした。
いつの間に現れたのか、俺の左手側に人がいた。麦わら帽子を被る、小麦色の肌の少年だ。
少年は虫取り編みを手に、大草原の中を駆け抜けていく。それはもう風を切るように、素早く、自由に。
白い半袖のシャツに動きやすそうな短パン。泥だらけのサンダル。肩から提げられた緑色の虫かご。
きっと今までカブトムシかなにかを捕まえに行っていたのだろう。虫取り編みを持つ少年の手は土にまみれていた。
――あの少年を、俺は知っている……。
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